7月の陽射しの下、目の前のロータリーに出入りする車を見るともなく見ながら、三人はとりとめのない会話を交わしていた。すると、ロータリーにつながる通りの向こうから、丸顔の可愛らしい女が歩いてきた。久美子だった。
「先生、こんちは」
三人は挨拶をした。
「こんにちは。ごめん、待った?」
待ち合わせ時刻の少し前だったが、久美子は謝った。
「いえ、全然。俺たちも来たばっかりですから」
孝一が首を振りつつ、そう言った。
「そうなの」
「今日は、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね」
久美子は微笑んだ。柔和な笑顔だった。
はっきりした眉毛は生まれつき少し吊り上がっていて、彼女の表情を引き締めている。だが、その下の目は優しく、内面の穏やかさが表れているようで、きつい印象は全くない。
(可愛い……)
三人は心の中で嘆息した。もちろん、そんなことは今日に限ったことではない。
「お昼は食べたの?」
「はい、食べました」
孝一が答えた。
「そう。私も食べちゃった」
ロータリーの中心に立つ時計は、午後1時少し前を指していた。
「あの、これ、お菓子買ってきましたから、後でデザート代わりにどうぞ」
伸司が手に持ったレジ袋を持ち上げて見せた。近くのコンビニで仕入れておいた菓子が何種類か入っていた。
「わあ、色々あるね。じゃ、後でみんなで一緒に食べよう」
甘いものが好きな久美子は目を輝かせた。
会話をしながら、三人は久美子の姿をそれとなく観察していた。
久美子の服装は、伸司が彼女の腋毛を見たときと同じ半袖のブラウスに膝丈のスカート、それに白い靴下にスニーカーだった。
久美子のそんな姿を見ただけで、彼女のブラウスの下に隠されているかもしれない腋毛が想像されて、早くも三人の下腹部の奥に重いざわめきが起こる。
のみならず、可愛らしい久美子の顔立ちと、そんな彼女の体から放たれているとは、とても信じられない野性的な腋臭の匂いとの強烈なギャップに、三人の欲望は否応なく煽られるのだった。
(あ゙あ゙あ゙あ゙ーっ、可愛いっ。それに臭いっ……。可愛くて臭いっ。あ゙あ゙ヤリてえっ。たまんねーよっ……)
三人は思わず、頭の中で久美子に抱きつき、腕を上げさせ、かぐわしい腋の下にしゃぶりつき、あるいは、いきなり蜜壺の中を往復した。
「じゃ、行こうか」
久美子が言った。
「あ、は、はい」
学生たちは我に返り、久美子とともに歩き出した。
久美子と孝一が並んで歩き、そのすぐ後ろを伸司と吉博がついていく。
吉博は、目の前の久美子を凝視した。考えてみると、彼女の後ろ姿をじっくり見るのは、これが初めてだった。彼女からの視線を気にする必要はないので、ガン見状態だ。
久美子の髪型は、やや長めのショートカットだ。ボリュームが多めの髪がトップやサイドから後ろに流れる感じは、可憐というより格好良いという印象だった。
吉博は彼女のそんなところにも魅かれていて、思わず心の中で(可愛い……)と溜め息をついた。
久美子のブラウスには、中につけている白いブラジャーが透けていた。暑さのせいか、ブラウスの背中は部分的に汗で濡れていて、そこでは一層はっきりと、ブラジャーの白さが透け出していた。
自分の前を歩いているので、腋臭の芳香も絶え間なく漂ってきて、鼻腔を、そして劣情を甘くくすぐる。
久美子のそんな後ろ姿を見、体臭を嗅いだだけで、吉博は早くも股間の分身が硬くなり始めるのを覚えた。先生は、今日も腋毛を生やしたままだろうか……。腋毛を写真に撮れるだろうか……。あわよくばセックスもできるだろうか……。想像はあらぬ方向へ勝手に走っていく。
ふと気がつくと、隣を歩く伸司も、燃えるような眼差しで久美子を見つめている。きっと、吉博と同じことを考えているのだろう。
伸司も、吉博が自分の方に顔を向けたのに気づいた。吉博が、意味ありげにニヤリと笑いかけながら、みずからの下腹を軽くポンポンと叩くと、伸司も苦笑して、同じように下腹を叩いてみせた。
(もう半勃ちだろ)
(おう。こんなところで勃つなんて、困っちゃうよな)
と、無言で会話した。
久美子に導かれて三人が着いたのは、マンションの一室だった。彼女の父親が賃貸用に所有している物件に、格安で住まわせてもらっているのだという。
中に入ると、そこに充満していたのは久美子の甘い体臭だった。それを嗅いだ三人は、早くも彼女の体内に入り込み、柔肉に抱かれる妄想にとらわれて、頭がクラクラしそうになる。
三人は、ダイニングを兼ねたリビングに通された。壁際に置かれた書棚に英文学関連の専門書が並んでいるほかは、特に変わったところのない、こざっぱりとした部屋だった。南向きの窓から、午後の明るい光が射し込んでいる。
ダイニングテーブルを囲んで椅子に腰掛けると、久美子がテーブルにコップを並べ、ペットボトル入りのアイスコーヒーを入れてくれた。三人も、買ってきた菓子のパッケージを開けてテーブルの上に広げ、久美子に勧めた。
しばらく菓子をつまみながら雑談をしたあと、頃合をみて伸司が持ちかける。
「ところで、折り入って先生にお願いがあるんですけど」
「なに?」
「先生の写真、撮らせてもらえませんか?」
「写真? どうして?」
久美子は少し首をかしげた。そんな仕草も可愛らしい。
「実は俺たち三人とも、先生が好みのタイプなんですよ」
「えーっ、うそー」
久美子はちょっと驚いたようなリアクションをしつつも、満更でもなさそうだ。
「本当ですよ。週一回の授業でしか会えないなんて寂しいから、せめて写真だけでも一緒にいたいんです」
孝一が気取った台詞で、そう説明した。
「え~、そうなの? ……でも、写真は、なんだか恥ずかしい……」
「恥ずかしがることないですよ。こんなに可愛いのに」
「そんな、おだてても何も出ないよ」
久美子はそう言いつつも、「可愛い」と言われて嬉しそうな様子だ。
「いいですよね? お願いします」
吉博が畳み掛けるように言った。
「うん……。じゃ、いいよ」
「おおっ、ありがとうございます」
「ここで撮るの? それともどっか外に行く?」
「ここで撮ります」
チャンスが一歩一歩、近づいてきた。三人は胸を高鳴らせながら、スマホやカメラをポケットから、あるいは自分のカバンから取り出す。英書のことなど、最初から彼らの念頭にはなかった。この美人講師の腋毛のほうが、はるかに重要だ。
「じゃ、ちょっと立ってもらえますか?」
伸司が促し、久美子は椅子から立ち上がった。
「じゃ、撮りますよ。ニッコリ笑ってください。……おお、可愛いですね」
スマホを操作しながら、孝一が久美子に尋ねる。
「ところで、先生は、彼氏は、いるんですか?」
久美子が答える。
「彼氏? いないよ」
「へーっ、彼氏いないんですか。いそうに見えるけど」
伸司が驚きの声を上げた。
久美子は微笑みながら、軽く目を伏せた。
「募集中なの……。誰かいい人、いないかな……」
久美子はそう言うと、頬に赤い色を浮かべた。
これは、誘いの言葉かもしれない。三人は勝手に期待を膨らませ、それぞれ心の中で叫ぶ。
(チャンス!!)
(キタキタキターッ!!)
(セックスだ!!)
なんとも、気が早い。だが、人間の考えることなど、いつも同じだ。
「じゃあ、俺たち三人、先生の彼氏に立候補しますよ。三人まとめて、面倒見てください」
伸司が、頭の中で全裸の久美子に勃起を抜き挿ししながら、そう言った。これも気が早い。
「えっ、そんな、三人いっしょに?」
久美子は目を丸くした。
「そう、三人いっしょに。もう、俺たち、先生の大ファンなんですよ……。いいっすよね」
「でも、……私、講師だから、学生とつき合って、バレると面倒だし……」
三人の期待に反して、消極的な反応だ。それに対して、吉博が言う。
「そんなの、バレやしませんよ。あ、こっちにカメラ目線、お願いします」
孝一も、励ますように言う。
「大丈夫ですよ、先生。……ほら、もっと笑って笑って」
とりあえず、久美子に彼氏がいないことが分かって、三人は先行きに明るさを見出していた。
とはいえ、久美子とセックスまで出来るかどうかはまだ分からないが、それは後の問題として、今は彼女の腋毛を撮影することに注力することにした。
そうやって更に何枚か撮ったところで、三人は久美子に片手で髪を触るポーズをとらせた。何枚か撮る。だが、腋が開いていない。
「じゃ、もうちょい、腕をこう開いて、髪をかきあげて下さい」
伸司が自分の腕で手本を示しながら言った。言うまでもなく、袖口の中が見えるようにするためだ。
いよいよ、美人講師の腋毛が見られるかもしれない。三人は心臓を高鳴らせた。
だが、久美子はためらう。
「え、……それは……」
「どうしたんですか?」
孝一が尋ねた。
「それは、ちょっと……」
久美子は目を伏せた。
「だめですか?」
「私、あの、……お手入れしてなくて……見えちゃうから」
「何がですか?」
何が見えるかなど、三人とも分かりきっている。だが、吉博があえて意地悪く、そう質問した。
久美子は頬を赤らめながら、小声で告白する。
「……その……わ、腋の下の……ヘアーが……」
その言葉は三人の耳より先に、股間に響いた。
腋の下のヘアー……。なんという恥じらいに満ちた、しかし図らずも欲情をそそる言い回しだろうか。
しかも、久美子は「腋の下のヘアー」の手入れをしていないことを、みずから白状してしまったのだ。そのことが一層、三人の興奮に拍車をかけた。
いま目の前にいる美人講師が、腋の下に未処理の茂みを蓄えている……。この清楚な白いブラウスの下に、真っ黒な腋毛が隠されている……。そして、彼女が腕を開けば、それが自分たちの目の前にさらけ出される……。そんなイメージが三人の脳裏に沸々と湧き起こり、性欲中枢を刺激した。
一方、恥じらっているところをみると、久美子は腋毛を見られるのを気にしない性分というわけでは、なさそうだ。
では、人に見られる可能性があるのに、なぜ腋毛を伸ばしたまま半袖を着ているのか、それは分からなかった。
孝一が言う。
「先生、そんなの、全然気にしないでいいですよ。誰でも自然に生えるんですから」
だが、気にしないでいいなどと言いつつ、孝一の股間は、既に目に見えて膨らみ始めている。もちろん、他の二人もだ。
これでは下心丸出しではないか。言行不一致だ。いや、言棒不一致だ。もっとも、棒はいつも持ち主の言うことなど聞いてはくれないが。
久美子は一瞬、孝一の膨らみに目をやったが、何も気づかない振りをして、再び視線を落とした。
吉博が孝一の言葉を受けて、諦めずに言う。
「そうそう、先生ほどの美人なら、生やしてた方がずっとセクシーですよ」
伸司も加勢する。
「俺たち、腋毛を生やしてる女性が好きなんですよ。是非撮らせてください」
「……でも、写真に撮られるのは恥ずかしいから……」
久美子は困惑した表情で言った。
「そこをなんとか。お願いします」
孝一が食い下がった。だが壁は厚い。
「……ごめんなさい……」
久美子は拒んだ。
(やっぱ無理か)
吉博と孝一が諦めかけたとき、すかさず伸司が提案した。これも予定通りの行動だ。
「じゃ、撮影は無しにして、見るだけでもお願い出来ませんか?」
「……見るだけ?」
「はい。どうしても見たいんです。先生みたいな美人が、腋の下の毛を生やしてる姿を」
「……でも、私……すごく濃いから、恥ずかしい……」
しかし、そんな恥じらいの言葉も、却って三人を刺激するばかりだった。女の口から、みずからの腋毛が「すごく濃い」などという言葉が発せられては、興奮するなという方が無理がある。
三人の頭の中で、この美人講師の「すごく濃い」腋毛がありありと想像された。下腹部の奥で欲望と興奮が渦を巻いた。
それに耐えながら、吉博が懇願する。
「濃ければ濃いほど、魅力的ですよ。どうかお願いします」
「……でも、あんまり濃くて、女じゃないみたいなの……」
久美子は、自分が言葉を発するたびに、三人を一層狂わせているという自覚が全くないまま、抵抗した。三人の欲望は、淫靡な波状攻撃に爆発寸前だ。
(あああっ、こんなに可愛いのに、腋毛が濃くて女じゃないみたいだなんて……たまんねえよ……)
吉博は心の中で悲鳴を上げた。
久美子の言葉を受けて、孝一が手を合わせて頼み込む。
「それは素晴らしい!! 俺たちはそういう女性を待ってたんですよ。むしろ、腋毛のない女性の方が、却って幻滅ですよ。どうか見せて下さい。この通りです」
久美子は少しの間、困惑した表情で考えると、決心したように口を開く。
「……じゃあ……いいよ。見るだけなら」
ついに壁は崩れた。
「ありがとうございますっ!!」
三人は一気に高揚した。撮影ができなくても、見ることができれば、目的は半分は達成されたようなものだ。